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「没後200年 江戸の知の巨星 大田南畝の世界」

狂歌の名人「蜀山人(しょくさんじん)」こと大田南畝(おおたなんぽ)(1749〜1823)は、平賀源内や山東京伝、版元の蔦屋重三郎や浮世絵師の喜多川歌麿などとも交流のある、華やかな江戸の出版界の中心人物であり、現代でも落語や時代小説などに登場します。幕臣としても有能で、御家人という低い身分ながら豊富な知識と能力によって登用され、重要な任務をこなしました。なによりも、同時代の事件・風聞から歴史的な典籍まで、目にしたあらゆる事物を書き残した功績は大きく、南畝の記録がなければ埋もれてしまった事柄も多かったと考えられます。 南畝没後200年記念となる本展では、南畝自筆の書物、版本や肉筆画、版画など約180点を通して、幅広く、奥深い南畝の業績を、7つの章で紹介します。さらに、南畝の生涯の節目ごとに彼を支えた知友で、たばこ屋でもあった平秩東作(へずつとうさく)と蘭奢亭薫(らんじゃていかおる)の紹介も交え、江戸の知の巨人の姿を見つめます。

  • 石崎融思画 大田南畝肖像
    個人蔵 [前期展示]

  • 街談録(がいだんろく)
    沼津市明治史料館蔵 [前・後期展示]

「没後200年 江戸の知の巨星 大田南畝の世界」開催概要

会期 2023年4月29日(土・祝)~6月25日(日)
前期 2023年4月29日(土・祝)~5月28日(日) 後期 2023年5月30日(火)~6月25日(日)
主催 たばこと塩の博物館 後援 日本近世文学会 法政大学江戸東京研究センター
開館時間 午前10時〜午後5時
(入館締切は午後4時30分)
会場 たばこと塩の博物館 2階特別展示室
休館日 月曜日
入館料 大人・大学生 100円
小・中・高校生 50円
満65歳以上の方 50円 ※年齢がわかるものをお持ちください。
※障がい者の方は障がい者手帳(ミライロID可)などのご提示で付き添いの方1名まで無料。
※なるべく少人数でのご来場をお願いします。
※やむをえず、開館時間の変更や臨時休館をさせていただく場合があります。
最新の開館状況等は、公式ツイッター、お電話でご確認ください。

展示関連イベント

展示関連講演会
「大田南畝という人 ―文芸と書物文化―」
日時:5月20日(土) 午後2時~
講師:小林ふみ子(法政大学教授)
会場:3階視聴覚ホール
「直次郎の四苦八苦」
日時:5月21日(日)午後2時~
講師:浅井信英(大田家菩提寺住職)
会場:3階視聴覚ホール
「大田南畝とロシア使節レザノフ長崎来航」
日時:5月27日(土)午後2時~
講師:藤田覚(東京大学名誉教授)
会場:3階視聴覚ホール
「江戸幕府の人事政策と大田南畝 ―支配勘定を中心に―」
日時:6月17日(土)午後2時~
講師:山本英貴(帝京大学准教授)
会場:3階視聴覚ホール
「大田南畝と蔦屋重三郎 」
日時:6月18日(日)午後2時~
講師:鈴木俊幸(中央大学教授)
会場:3階視聴覚ホール
  • ※往復ハガキによる事前申込制で、定員は40名。応募ハガキは、5月9日(火)必着、応募多数の場合は抽選となります。
    参加には、入館料(一般・大学生100円/満65歳以上・小中高校生50円)が必要です(満65歳以上は要証明書)。

※参加申込の受付は終了しました。多数のお申し込み、ありがとうございました。

展示の構成と作品紹介

第一章 南畝の文芸

南畝は幼少時から神童と目され、ことばを自在に操る天賦の才に恵まれた人物でした。漢詩を出発点とし、その名を世にとどろかせた狂詩、 盟友らとともに多くの人を巻き込んで江戸に大流行をもたらした狂歌、さらには戯作も手がけました。
この章では、生涯を通じて作り続けた漢詩をはじめ、南畝が手がけた諸ジャンルの作品を紹介します。

  • 寝惚先生文集(ねぼけせんせいぶんしゅう)
    個人蔵 [前・後期展示]
    新宿のたばこ屋で学友でもあった平秩東作の手引きにより出された南畝の出世作で、「寝惚」は生涯にわたる呼称となりました。当時の漢詩人たちの『◯◯先生文集』の形式を模擬しながら江戸の風俗や流行を描き出しています。

  • 老莱子(ろうらいし)
    青裳堂書店蔵 [前・後期展示]
    南畝の母の数え60歳を祝って狂歌会が開催されました。当時の有名狂歌師が一堂に集い、祝いの言葉を寄せるという豪勢な会で、本書はその成果をまとめたものです。

  • 三十六人狂歌撰(さんじゅうろくにんきょうかせん)
    個人蔵 [前・後期展示]
    図版にある「四方赤良」は南畝の筆名のひとつです。
    寝惚先生の名にちなんでなのか、寝てばかりの南畝の姿が肖像画として描かれています。

  • 狂歌百人一首 古今狂歌袋(ここんきょうかぶくろ)
    たばこと塩の博物館蔵 [前期展示]
    こちらにも「四方赤良」とあります。
    やはり寝ている南畝の姿が描かれています。

  • 鎌倉太平序(かまくらたいへいのいとぐち)
    個人蔵 [前・後期展示]
    恋川春町画作、「当世の大通需」の「なんぽ(南畝のこと)」を主人公にした黄表紙。

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第二章 情報編集者としての貌

南畝のもう一つの大きな看板といえるのが随筆です。当時の随筆は、筆者の考えや思いといった内面を綴ったタイプのものではなく、耳目に留まった書物の記載や見聞、伝承などを記録したものでした。とりわけ、『一話一言』は、南畝の随筆として最も有名というだけでなく、江戸時代を代表する随筆ということができ、私たちに多くの情報を与えてくれます。
この章では、自筆の部分を多く含む『一話一言』をはじめ、南畝の随筆のいくつかを紹介します。

  • 一話一言(いちわいちげん)
    独立行政法人国立公文書館蔵 [前・後期展示]
    南畝が見聞きしたさまざまな事柄を書き留めており、自分の数え六十歳の祝いの膳なども記録しています。
    ※図版の巻は後期展示。

  • 仮名世説(かなせせつ)
    個人蔵 [前・後期展示]
    南畝が書き留めた随筆で、没後に出版されました。この図版の挿絵はエラの張った南畝の特徴を捉えた似顔絵です。

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第三章 典籍を記録・保存する

複写という手段のない時代、南畝は書物を借りては気づいたことを記入しつつ自ら写し取り、時に身近な人たちの手も借りて書写させ、蔵書に加えていきました。また、書物だけではなく、紙片に記録したものを貼込帖という形で残し、それらを世の人に届けようと、叢書を編纂しました。
この章では、南畝が集めた書物や南畝が写したものなどを展示し、多くの書物の伝存に努めた姿を紹介します。

  • 寸紙不遺(すんしふい)
    国立国会図書館蔵 [後期展示]
    「どんな紙片もなくさない」という表題の通り、狂歌会や芝居関係のチラシ類まで、南畝の身近にあった紙片を貼り込んだものです。

  • 大田南畝印譜
    個人蔵 [後期展示]
    南畝が自身の蔵書や墨跡などに用いた印章34点を捺した軸。南畝没後に作られたとみられます。

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第四章 歴史・地理を考証する

南畝の探究心は幅広く、伝統的な事物から、庶民の風俗・習慣の歴史まで及びました。中でも江戸の地理や、遊里を含む風俗・文化の成り立ちへの関心は強く、仲間の戯作者・山東京伝らを巻き込んで、懐古趣味と考証随筆の流行をもたらしました。
この章では、南畝が仲間とともにまとめた奇物・珍物集や地誌などを紹介します。

  • 近世奇跡考(きんせいきせきこう)
    独立行政法人国立公文書館蔵 [前期展示]
    南畝と親しかった山東京伝の考証随筆。今回展示する資料は南畝旧蔵で、南畝による多くの書入れがあります。

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第五章 公務に勤しむ

南畝の家は、将軍に直接謁見することができない下級武士の家柄でした。南畝の出世の道は険しいものでしたが、自身の知識と機知で幕府の人材登用試験を突破し、数え46歳で幕府の文官に登用されました。有能な幕臣として重用される傍ら、公務に関わる貴重な記録を残しました。
この章では、南畝の残した任務に関係する記録などを紹介します。

  • 竹橋余筆(ちっきょうよひつ)
    独立行政法人国立公文書館蔵 [前・後期展示]
    支配勘定を任ぜられた南畝は竹橋の書物蔵で、勘定所の帳面を整理することになりました。帳面整理の合間には、勘定所の古い記録を写しており、元禄末の全国のたばこ生産についても写し取っています。
    ※図版の巻は後期展示。

  • 崎鎮八絶(きちんはちぜつ)
    東京大学総合図書館蔵 [前期展示]
    南畝が長崎に赴任していた文化元年(1804)10月ごろに詠んだ七言絶句8首の絵入り漢詩集。

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第六章 同時代の証言者として

筆まめな南畝は、自らが目撃したことや体験したこと、さらには古い記録の筆写など、形式を問わず多くの記録を残しました。大量かつ詳細なこれらの記録は、この時代を知る資料として大変有用なものです。現代の私たちが江戸時代の風俗や流行、事件などに触れる際、その情報源が南畝の記録によることも少なくありません。
この章では、南畝が残した江戸時代のさまざまな記録を紹介します。

  • 街談録(がいだんろく)
    沼津市明治史料館蔵 [前・後期展示]
    全22冊からなる随筆で、50年以上にわたって記されました。今回展示する資料はそのうちの5・6・7巻で、南畝が記した『街談録』原本は、現在この三冊しか知られていません。

  • 沿海異聞(えんかいいぶん)
    国立国会図書館蔵 [後期展示]
    南畝編。日本沿岸に現れた、または漂着した異国船や異国人、あるいは海外に漂流して帰国できた日本人などについて、その顛末を書き留めています。

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第七章 雅俗の交遊圏

南畝の交友関係は幅広く、狂歌仲間はもちろん、戯作者の山東京伝、葛飾北斎や鳥文斎栄之に代表される浮世絵師、さらには歌舞伎役者まで、当時の文化界を代表する面々と交流がありました。まさに、江戸文化爛熟の中心人物といえます。
この章では、それらさまざまな文化人たちと南畝の交流を示す資料を紹介します。

  • 葛飾北斎画 富嶽図(ふがくず)
    太田記念美術館蔵 [後期展示]
    北斎画の富嶽に南畝が賛を寄せた扇面。2人の合作は数多く残っています。

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南畝とたばこ屋

南畝の多岐にわたる業績を紹介する本展ですが、当館ならではの視点として、「南畝とたばこ屋」にスポットを当てます。たばこ屋でもあった平秩東作と蘭奢亭薫は、南畝の生涯の節目ごとに彼を支えた知友でした。
平秩東作(へずつとうさく)は、新宿の馬宿の子として生まれ、14歳でたばこ屋を開業しました。文芸をよくし、平賀源内をはじめとする多数の文化人と交友を持ちました。南畝とは内山賀邸(がてい:南畝の師匠)のもとで出会い、南畝の出世作『寝惚先生文集』を刊行へと繋げたのも東作でした。文芸面以外では、浄土真宗の異端の一派に潜入したり、蝦夷地探索に出たりと一風変わった経歴を持ち、その際の見聞録も残しています。
一方、蘭奢亭薫(らんじゃていかおる)は、飯田町中坂下(現:九段坂付近)のたばこ屋です。南畝と出会った時期は未詳ですが、南畝の住む牛込とも近く、何かと接点が多かったと考えられます。文化元年(1804)、南畝の長崎赴任に同行した際には、体調不良の南畝のために医者を手配するなど何かと世話を焼き、その時の様子と薫への感謝が南畝の書簡などに綴られています。
このコーナーでは、南畝と彼らの関係を各種資料で紹介します。

  • 狂歌百人一首 古今狂歌袋(ここんきょうかぶくろ )
    たばこと塩の博物館蔵 [後期展示]
    蔦屋重三郎から出された狂歌集。北尾政演(戯作者の山東京伝の絵師としての名)による挿絵で、すでに晩年に差し掛かっていた平秩東作の姿が描かれています。

  • 二国連璧談(にこくれんぺきだん )
    西尾市岩瀬文庫蔵 [前・後期展示]
    平秩東作は平賀源内と親しく、本書は源内とその愛童との恋愛事情を記した江戸版BL小説。本展では下書きにあたるこの資料と、出版に備え用意された稿本『連璧談』を出展します。

  • 葛飾北斎画 摺物 〔亥年春興〕
    個人蔵 [後期展示]
    北斎が絵を手がけた享和3年(1803)初春の摺物。蘭奢亭薫は「蘭奢亭香保留」として、春興の狂歌を添えています。売り物ではなく、私的に出資して作られる摺物は豪華なものが多く、ここでも金彩が用いられています。美術商として知られる林忠正の旧蔵品です。

  • 葛飾北斎画 飲中八仙 跋 (いんちゅうはっせん ばつ)
    太田記念美術館蔵 [後期展示]
    杜甫が8人の酒豪たちを詠んだ漢詩「飲中八仙歌」に取材する、葛飾北斎による揃物摺物のうちの一枚。長崎での蘭奢亭薫のスケッチに基づいて北斎が描いたことがうかがえます。

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