*当館所蔵喫煙具から*
現在、当館では開館以降に購入・寄贈されたものも含めて、「たばこ盆」「きせる(たばこ盆・たばこ入れに付属するものは除く)」「たばこ入れ」等の喫煙具類2441点を収蔵していますが、その多くは浮世絵他絵画類と同じく佐々木長官の下で集められたものが中核を占めています。その中から今回は、「名品」とされる喫煙具を4点選び出してご紹介いたします。
- 真鍮河骨形きせる(花見きせる)
- 寸法 : 長さ104.1cm
- 寛永(1624〜44)頃の喫煙風俗のひとつに、伊達(だて)を競う男達や遊女などが町歩きや野遊びに際して、「花見きせる」と呼ばれる大きくて派手なつくりのきせるを担いで持ち歩くことが流行した。近世風俗画などの絵画資料ではよく見られるが、現存する花見きせるは珍しく大変貴重なものである。
- 朱漆内黒漆塗りたばこ盆
たばこ盆の原型は、香道具一式を揃えた「香盆」にあるといわれる。つまり香炉を火入れに、香箱をたばこ入れ、焚き殻入れを灰落しに、香箸のかわりにきせるを2本添えて、そのまま喫煙具として利用したからだという。このたばこ盆は、加賀百万石の大名、前田家に伝わった大形の丸盆形たばこ盆で、直径が45cmもあり、素材の巨木を連想させる。塗り分けた金と朱・黒の漆は、単純かつ明快であり豪壮さを演出している。箱書きには「御客前」とあり、前田家で来客用に使用したことがわかる。盆形のたばこ盆の典型的な形態を伝える、逸品の一つである。
- 梨子地草花蒔絵提げたばこ盆
- たばこ盆全体に細かい金の総梨子地(そうなしじ)を施し、四季の草花と、唐草を平蒔絵で加飾した豪華なたばこ盆である。このたばこ盆は、1934年(昭和9)に開催された紀州徳川家の売立目録『静和園第二回蔵品展覧目録』に掲載されていることから、この売立を通じて、専売局が入手したものと思われる。客(主人に対しての相手)の存在を想定した造りで、刻みたばこを入れたであろう引き出しと、きせる掛けが両側面に配されていて、このたばこ盆を挟んで、相対しながら喫煙ができるように工夫されている。
- 朱漆塗りたばこ盆
- このたばこ盆は、江戸時代後期の歌舞伎役者、七代目市川団十郎(1791〜1859)の遺愛品とされる。火入れの模様は「鎌」の絵と「○」に「ぬ」で「構わぬ」と読む判じ物になっている。この模様を、七代目団十郎が好んで用いたため、その後、市川家好みの模様となり現在でも使用されている。また、一見すると何でもない火入れのように見えるが、たばこ盆に隙間なく納まり、竹の灰落しの部分のくぼみなども量産品では不可能なもので、肥前有田(現、佐賀県有田市)への特注品であったことがわかる。