たくみのたくらみ 〜きせる・たばこ盆・たばこ入れにみる職人の手技〜
きせるやたばこ盆、たばこ入れなどの喫煙具には、金工、漆工、染織、角細工や竹細工といった複数の職人の手技が施されています。職人=「たくみ」たちが喫煙具に施した手技の数々は、見る者の目を楽しませ、かつ、驚かせてきました。ここでは、その手技の妙をほんの一部だけご紹介します。
たばこ入れの金具(前金具・裏座)などに求められる実用的な機能は、袋とふたを留めることにすぎません。しかし、ここは装飾という点で重視された部分でもあり、名工の手によるものが多く、美しい彫刻がなされているものが少なくありません。
蒔絵は、漆で下地塗りをした面に、さらに漆で文様を描き、その漆が乾かないうちに金粉や銀粉を蒔き付けて固着させる技法。7世紀ごろから日本独自の装飾技法として発達しました。漆も金銀も高価な材料でしたが、 蒔絵をふんだんに施した喫煙具も多く見られます。
青貝細工とは、ヤコウガイやアワビの殻の真珠層を文様の形に切抜き、木地や漆地にはめ込んだり貼り付けたりする螺鈿(らでん)技法の一つ。江戸時代後期には国内での需要とは別に、西欧でも人気を博し、長崎を中心として輸出用に青貝細工の漆器が作られました。江戸時代の日本には嗅ぎたばこや葉巻を嗜む習慣はありませんでしたが、輸出用に受注生産された青貝細工の嗅ぎたばこ入れや、葉巻入れも残されています。
アフリカ、東インドを産地とする象牙は、耐久性があって細工しやすいという特徴があります。輸入品で稀少価値が高かったこともあり、江戸時代にはきせる筒のほか、櫛(くし)やかんざし、根付などの素材に用いられました。
「たくみ」たちの妙技は装飾技法にとどまらず、“からくり”という精密な細工や仕掛けによっていろいろなものを動かす技術にも生かされています。例えば、江戸時代に発明されたライターや、昭和の名人として知られる落語家・八代目桂文楽が所有していた、たばこ入れ収納用の箪笥(たんす)は、その代表例の一つです。