* イラン東部・アフガニスタン・パキスタンの塩袋 *
このエリアは、中西部より気候が過酷で農業に適さず、伝統的な遊牧生活も残っています。単調な色彩が続く砂漠地帯で、塩袋も、どちらかと言えば色数が少なく暗めの色調です。以下は個人的な感想ですが、このエリア(バルチスタン地方)の風土を思い浮かべながら見ると、かえって“荒涼とした乾燥地に咲く華”とでもいうような存在感、私たち農耕民とは大きく異なる遊牧民ならではの生活用具が放つ迫力を感じます。
- バルーチ族の塩袋
- イラン・1960年頃〈56×39cm〉
使われて古びた味わいがある。当館所蔵の塩袋には、実用よりも販売を目的に制作されたと疑われる作品も多いが、これは実際に塩袋として使われたものと思われる。
Salt Bag ‘Namakdan’, Baluch, Persia, ca.1960
- ブラーフィ族またはバルーチ族の塩袋
- パキスタン・1950年頃〈96×90cm〉
このエリアには、多数の房飾りのついたよく似た意匠の塩袋が多い。収集時のデータはブラーフィ族となっているが、バルーチ系だとの指摘がある。
Salt Bag ‘Namakdan’, Brahui or Baluch, Pakistan, ca.1950
紋様は、星や水、動物や鍵などを抽象化した幾何学紋が多く、部族や氏族ごとに特徴があり、日本の家紋に似ているかもしれません。もし塩袋が原野に放置されても、所有者がわかるようになっています。もちろん、家紋を散らした大名道具とは意味合いは異なるでしょうが、塩袋にまで細かな文様を施すということ自体が、遊牧民にとっての塩の役割の重要性を物語っているように感じられます。