特別展Exhibition

Web企画展 [第5回] 西アジア遊牧民の塩袋

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* 遊牧生活を支える塩のはたらき *

遊牧民が飼育する家畜は、ヒツジやヤギ、ウシやラクダなどの草食動物です。草食動物は、餌となる植物がほとんど塩を含まないので、生理的にとても塩欲求が強いですが、水と草を求めて移動するだけでは、塩が得られるとは限りません。つまり、遊牧民にとっての塩は、人間の食用よりもまず、家畜のためのミネラル栄養として重要なのです。

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また、遊牧の場合、家畜は囲われたり、ヒモでつながれたりしていません。しかも、乳を採られたり毛を刈られたりするわけですから、家畜が脱走しても不思議ではありません。遠くの草地に移動するためには、群れ全体をコントロールして移動させる必要もあります。そのような場面で、人間の都合に沿わせて家畜をコントロールするための“しかけ”のひとつが塩なのです。人間が塩を持っており、ときどき与えてくれることが分かれば、塩欲求が強い家畜は、つながれていなくても人間の近くにとどまってくれます。塩袋を持った人間が先導すれば家畜がついてくるので、群れ全体の誘導もできます。遊牧民は、物理的なヒモの代わりに、塩という“生理的なヒモ”を使って、家畜群をコントロールしてきたのです。“生理的なヒモ”が機能するためには、塩を常に人間の管理下に置き、家畜が勝手に舐められないようにする必要があります。

そのために不可欠な装置が塩袋です。西アジア遊牧民の塩袋は凸字形をしており、特徴的な形なので一目で分かります。この凸字形は、袋そのものは必要量の塩が入る大きさを確保しつつ、口だけを小さくすぼめて、家畜が勝手に塩を舐められないようにした結果です。家畜群のコントロールという「遊牧ならではの塩の機能」が、塩袋の形にも表れているのです。塩は、「家畜の栄養」と「群れのコントロール」の両面で遊牧という生業の根幹を支えており、今回ご紹介した塩袋は、その象徴だといえるでしょう。

[口だけをすぼめた凸字形塩袋の作り方]
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