
パイプの移り変わり
パイプの素材には、さまざまなものがありますが、ヨーロッパで古くから用いられていたのは、粘土を素焼きにしたクレーパイプと呼ばれるものです。もともとは、アメリカ大陸の先住民のあいだで使われていましたが、16世紀の中ごろ、喫煙の風習とともにヨーロッパに伝わりました。
これに次いで登場したのは、メアシャムパイプです。別名「パイプの女王」とも呼ばれ、純白で柔らかく、彫刻を施しやすいという長所があり、18世紀のヨーロッパの上流社会で大流行しました。しかし、加工しやすい反面、こわれやすく、また、高価であったため、今日では、19世紀に登場したブライアーパイプに王座を譲っています。
*クレーパイプ
クレーパイプは、16世紀末にはイギリスで製造が始められ、その後オランダなどでも盛んに製造されました。当初は新大陸の先住民のパイプを模倣していたようですが、しだいに形は洗練されたものになり、なかには、変わった形や色を付けたものも作られました。加工しやすく安価ですが、こわれやすいことから、現在ではごく一部の地域でしか用いられていません。

*中央ヨーロッパのパイプ
ドイツを中心に、中央ヨーロッパの山岳地帯で発達したパイプには、チロリアンパイプ、ジャーマンパイプなどがあります。ボウル(火皿)は絵の描かれた陶製のものが多く、金属製の蓋がついています。これは、たばこの火をとばさないよう工夫されたもので、山火事の防止にも役立っています。

*メアシャムパイプ
メアシャムは、日本では海泡石(かいほうせき)と呼ばれる鉱物で、パイプの材料としては18世紀以降使われるようになりました。トルコを中心に地中海付近で採取され、主にオーストリア、ドイツでパイプに加工されます。素材が柔らかいので細工しやすく、彫刻されたものは美術的にも高く評価されています。喫煙するうちに白色から美しい飴色に変わり、愛好家にはこの色付の具合が価値判断のひとつになっています。

*ブライアーパイプ
ブライアーとは地中海沿岸地方に見られる「ホワイトヒース」という、つつじ科の灌木の根の部分のことです。木質がち密でパイプの素材としては理想的ともいえる特性があり、19世紀中ごろに製作が始められて以来、もっとも広く普及しています。木目の美しさも、今日パイプの王座を占めている要素のひとつといえるでしょう。
